2010/11/08
日光江戸村と武道について



江口美幸です。
私の兄はフランスに住んでいるんですが、先日、休暇を取ってフランス人の奥さんと一緒に日本に帰ってきました。
せっかくだから、どこかに連れていってあげよう、でもどこがいいかしら?と私は考えました。奥さんは日本らしいものを見たいというけれども、始めに京都に行ってくるというから、お寺とかはかなり観るだろうし、第一こちらは幼児二人がいるから、あまりに鄙びたところだと子供が退屈して騒ぎ出しちゃうし・・・「日本らしい」ところで、幼児も退屈せずに喜ぶところ・・・。

ということで、行ってきました。「日光江戸村」へ!
時折、お侍さんや虚無僧が私たちの横を通るたびに恐怖で固まっていたうちの娘も、団子を買ってやったり竹トンボで遊んだりしてやると、大喜び。兄の奥さんも喜んでいたので、よかったと思いました。私も初めて行ったのですが、広くて本格的で見ごたえがあり、大人も楽しめるし、気に入りました。

その中の一つのアトラクションというか、「忍者の修行屋敷」というものがあって、外から見ると普通の民家なのですが、一歩中に入ると、かなりの傾斜で床も家具も屋根も斜めになっていて、平行感覚が狂ってしまい、斜めにずり落ちて行ったり、ふらふらになってしまう、というものがありました。
しかし、たくさんのお客さんが、きゃあきゃあ言いながら手すりにつかまって、やっとの思いで歩いている中を、するするするー、と滑るようにまっすぐに進む一人の男がいました。そう、うちのダンナさん・・・しかも、赤ん坊の次女を抱いて・・・。みんながびっくりして彼を見ていると、ダンナさんはくるりと私の方を振り向き、「俺がいつも言っているでしょ、武道の体重の乗せ方だよ、重心はどこにある?」と無表情に、謎かけのようなことを言い、そのまますいすいと赤ん坊を抱いたまま、歩いて行って見えなくなってしまいました。

なんか・・・映画みたい。
ダンナさんの言動には苛つくことが多い私もその時だけは(重心・・・立ち方・・・。ああ、あれかあ)と思い、私は素直に、ダンナさんが日頃から言っている体重の乗せ方で歩いてみました。
そうすると・・・おお、確かに!傾斜でもスムーズに歩ける!私は娘の手をしっかりとつないだまま、ひょいひょいと、ダンナさんよりはぎこちないですが、歩いてゆくことができたのでした。

兄の奥さんはその時、手すりに必死でつかまりながら、「わー」と今にも転倒しそうな兄を見て、それからするする歩いてゆくダンナさんを、口を開け、大きな目を見開き、じっと見つめていました。
で、長いことかかって私たちが待っていた、出口の場所にやっと来たと思ったら、興奮したようにフランス語で何か、ダンナさんに向かって喋り始めました。
「空手をやっているからそういうことができるのか、コツはなんなのか、それには何年くらいの修行が必要なのかって、きいてます」と、兄がまだ足元がおぼつかないまま訳してくれました。
ダンナさんは「そうですね、これは空手です。競技でなく武道の体の使い方です。コツは、正中線を意識することです。僕は30年稽古してますが、まだまだです」
と大真面目に答えましたが、兄は「えーと、武道と、正中線っていうのが、うまくフランス語に訳せないんですけど」と、困った顔で言っていました。
それから空手から話は発展し、日本の歴史、切腹の意味、赤穂浪士の話とか、色々な話になり、兄の奥さんは目を輝かせて聞いていました。もちろんうちの娘はその間、全くそんな話に興味はなく、川にたくさんいた鯉の餌付けに夢中になっていました。
兄の奥さんに、日本の美しい文化を少しでも分かってもらえたとしたら嬉しい限りです。
皆さんも日光江戸村に行ったら、是非トライしてみてください。基本や移動、日頃の稽古の成果が試されますよー。




忍者となって闘ううちの娘