2012/2/22
海の幸



八王子 八王子みなみ野担当の大谷です 終わったつもりがまだ続いている悲劇 いや喜劇 やってきました十一回目 さて何書くか・・・

没後百年を記念して青木繁 大回顧展 教科書でもお馴染み【海の幸】 漱石が愛した【わだつみのいろこの宮】も勿論登場 アオキと言えば石橋正二郎 中央線は真っ直ぐだ! ブリッジストーンいざ京橋へ
39年ぶりの回顧展らしいですが回顧展自体 二回目 かなり少ない 不幸の匂いがする。

実家は久留米の士族 早いうちから藝術にかぶれ 父親は武術の間違いではないかと呆れ顔 自分を天才と信じていたアオキは憧れの歴山大帝になるべく 何で世界に討って出るかと考え 哲学 軍学 史学 神学 文学 美学 ファウストならばその総てを撰んだことでしょうが その中から美学 つまり美術(西洋画)で身を立てると決意します。
東京美術学校に進学 そこには重鎮 黒田清輝が・・・自信満々のアオキはろくに授業も出ず黒田も手を焼きます。

しかし単にサボっていたわけではなく 藝術世界を最短で征服するため 図書館に通い 絵画の肥やしのために哲学 文学 史学 とくに日本書紀や古事記を読み漁ります。 そんな時代の自画像も写真も残っていますが傲岸不遜そのもの 学友には萬鉄五郎 熊谷守一もいました。
親友の画家 坂本繁二郎はその当時を回想します。
「青木君は才気にまかせてひとの絵に手を加えるくせがありました。
他人の絵の、もたもたした感じがいらただしかったのだと思います。
普通なら傍若無人、許しがたい行為ですが、とにかく藝術の鬼のような風貌と自信たっぷりの迫力に押されて、おとなしい連中は迷惑しても公然と歯向かう者はいませんでした。
一番の被害者は恋人の福田タネ君で、どこまでが自分の絵だかわからぬほど塗り替えられておりました」。
その勢いあってか21歳にて黒田主宰の白馬会賞を受賞 注目を浴びます。 さらに画家仲間を伴い千葉県南部の布良へ そこで描いたのが冒頭の【海の幸】。まるで絵画の彫刻 畳一畳ほどの横長のキャンバスにエッジの効いた作風はアオキの才能と勢いが溢れています。

この作品は未完成で書き残しがありますが自身「売れたら完成させる」とも「完成品とはなんぞや!?」とも発言していたらしく真意のほどは計りかねます。 事実 二年後には漁師の中でただ一人視線を投げ掛ける恋人 福田タネの顔を描き足しています。 作品の中の視線を投げ掛ける女性の殆どは彼女らしく(どんだけ好きなんだ!) 鑑賞者との距離を一気に縮めます。 わざとのように筆を置き あえて未完成にしたかのようで まるでシューベルトの未完成交響曲のようで傑作です。(驚き)
この作品で画壇に衝撃を与え 征服欲に拍車がかかったアオキは古事記を題材に神話 綿津見の宮の物語に取りかかります。 海幸彦に借りた大切な釣り針を落としてしまった山幸彦は海の中へ取りにいき そこで豊玉毘売に出逢い恋に落ちる話を三年の月日をかけて描き切ります。
自身最高傑作となる【わだつみのいろこの宮】東京府勧業博覧会に出展 最高の評価をもらうはずが まさかの坂の三等末席・・・この評価に怒り狂ったアオキは審査員を新聞紙上で激烈批判(汗)「今日の大家と為るには資格を要す、法螺達者にして技術拙劣なる可し 大家は退化なり、画が描けては大家になれず、貯財せずば大家になれず、困ったものなり」。これをキッカケに転落人生始まります。
アカデミーと対立した画家の絵は評価されることも売れることもなくなります。
画家で世界を征服するはずが画家で生活することさえ出来なくなります。
もとから極貧で恋人の家に生活を支えてもらっていたのに 追い討ちをかけるかのように実家の父が多額の借金を残し他界 田舎の家族の生活が長男のアオキに背負わされることになります。 恋人とも その間に産まれた男の子とも別れ 田舎の家族を支えるために帰郷する ことに・・・

しかし田舎に戻っても家族を養うことは出来ず 結局 九州の地にての放浪生活に身を落とします。 それでも中央画壇にいまだ未練があったアオキは必死に絵を描き文部省美術展に出品。 しかし敢えなく落選。(涙)
アカデミーとの軋轢と自信の喪失で 迷った筆には以前の輝きは失われていました。 極貧と放浪生活に疲れ 精神を病み 肺を病み そしてこの世を去ります。 なんと28歳と8ヵ月 天才の栄光と挫折・・・しかし画壇に見放されたアオキの絵は意外なところから評価されていました。
浪漫派の文人達 詩人の蒲原有明 与謝野鉄幹 島崎藤村 そして文豪 夏目漱石 小説の中の言葉です。
「いつかの展覧会に青木と云う人が海の底に立っている脊の高い女を画いた。代助は多くの出品のうちで、あれだけが好い気持に出来ていると思った。つまり、自分もああ云う沈んだ落ち付いた情調に居りたかったからである。」没後 アオキの絵は日本人の西洋画として初の重要文化財に認定される。 そして皮肉にもアカデミックの象徴の教科書に載ることに・・・「俺は神話をつくり、神話に生きる!」はモハメドアリの言 葉です 神話をこよなく愛した男 天才アオキ! 果たしてアオキは神話になれたのか・・・

果たして我が輩はアオキを理解出来たのか? 次回がないことを祈りつつ・・・。