2013/7/10
第二回将棋電王戦




押忍、八王子・八王子みなみ野道場の戸谷です。
 全国各地で観測史上初の連続猛暑日が続いています。とてつもなく暑いです。
先日ラジオで医師の方がおっしゃっていましたが、20年くらい前の夏の平均気温と現在の夏の平均気温は全く違うそうです。普段から運動している人は「私は鍛えているから熱中症なんかにならない!」と油断しやすいので気を付けてくださいとのことでした。あえて暑い中で稽古するのも大事ですが、道場生の方は明らかにこれは体調がおかしいと思ったらすぐに指導員に伝えるようにしてください。


さて、そんな暑さにも負けないくらい熱い戦いが春に行われました。
今回は空手・格闘技の話ではなく将棋の話です。
コンピューターと現役プロ棋士が平手のガチンコで公式戦を行う将棋電王戦です。今回は第二回になります。
昨年(2012年)の第一回では永世棋聖称号を持ち将棋連盟会長でもあった故・米長邦雄氏が、富士通研究所の伊藤英紀氏が開発したボンクラーズというソフトウェアと対戦し敗れています。現役を退いているとはいえ、一時代を築いた最強棋士の一人がコンピューターに敗れるというのは非常にセンセーショナルな話題となりました。
第二回となった今回は、世界コンピューター将棋選手権の上位5つのソフト対現役プロ棋士5人という団体戦で、一週間ごとに一局という形で行われました。

自分は普段から将棋の対局を見ることはそれほどありませんし、腕前も完全に初心者ですが、この「コンピューターVS.人間」という構図に惹かれて、一局10時間ほどにもなる対局の生中継を、仕事や練習の合間に毎週食い入るように見ていました。こういう戦いだと俄然人間を応援したくなります。
特に第二局に登場した佐藤慎一四段は自分と同い年で、勝手ながら境遇的にも似たものを感じ、「勝ってほしいなぁ!」と思っていました。残念ながら結果はコンピューター・Ponanzaの勝利。佐藤四段は史上初めてコンピューターに負けた現役プロ棋士となってしまいましたが、その戦いぶり、勝負に臨む姿勢はとても格好良かったです。

全五局、蓋を開けてみるとコンピューターの3勝1敗1引き分けで人間側が見事に負かされてしまいました。引き分けの一局も、プログラムの穴を突いた持将棋で、内容的にはコンピューターが圧倒していました。
本当に恐るべき強さです。

探索型AIの快挙としては、IBMが開発したDeep Blueというソフトが、1997年に当時のチェスの世界チャンピオンであったガルリ・カスパロフ氏を破っています。
ただ、その当時の研究者たちも将棋は人間のプロには到底勝てないだろうと予想していました。チェスは相手の駒を取ったらその駒は消えてしまいますが、将棋の場合は互いに取った駒を好きなタイミングで好きな場所に置けるため、探索範囲が圧倒的に広くなるからです。
桁が凄すぎてイメージできませんが、チェスの探索範囲は10の120乗で、将棋の場合は10の220乗なのだそうです。定石などをプログラムするので全部を全部計算するわけではありませんが、一応単純に見るとコンピューターにとってチェスより将棋の方が10の100乗倍難しいということらしいです。
しかし、それからわずか16年で将棋の世界でも人間を凌ぐような能力をコンピューターが身につけているのですから、情報科学の進歩は凄まじいです。

今回の電王戦を見ていて、コンピューターやプログラミングも放っておけば進歩するわけではなく、進歩させようとしている人たちが才能と意地をもって日々フル回転して進歩させているのだなぁと、コンピューターに全く詳しくない自分もそう感じました。
そしてもちろん、プロ棋士の方々も自分の一芸に一生を捧げ、憔悴しきるまで苦しみ考え抜いて腕を磨き勝負をしていました。
空手で振り返った時に、自分がそれ相応のことをやっているのかと自問できる良い機会でした。

   そうは言っても暑かったり疲れたりするとダレてしまう時もありますが、集中力が欠けてきた時に「いやいや、あの人たちに負けてなるものか」と思って頑張ります。
押忍。