2013/9/7
ジョージ・ダイアの三習作

八王子 八王子みなみ野担当の大谷です。やって来ました十六回目 じぇじぇじぇ! さて何書くか・・・。

没後二十年 鬼才フランシス・ベーコン大回顧展 一度見たら忘れない 忘れられないトリプティック(三幅対)も大集合 美は乱調にあり! いざ 竹橋へ。

2つの世界大戦を経験したベーコンは二十世紀を暴力の時代と捉えました。生まれはアイルランドはダブリン。父親は元軍人で競争馬の調教師 母親は資産家の娘。小さい頃は母親の下着とドレスを身に付けるような素敵な少年でした(汗)。
「十七歳のときだった。あのときのことは鮮明に覚えている。道端にある犬の糞を見て不意に悟ったんだ。そうか、人生とはこのようなものなのだと・・・」。犬の糞見て悟るとは大したもんだ。

そんな彼の作品は、肉 肉 肉 肉の塊、溶け出した顔、捻れた身体、抽象ではなく、あくまでも具象 絵解きを全く寄せ付けない牙を剥き出しにした叫び、叫びはムンクよりもエイゼンシュタインに近い。
モチーフにはゴッホやベラスケスもありますが、ベーコンの手にかかれば狂気そのものに変貌する 初期の頃は世間には全く受け入れられない代物でした。まるでパンクだ。
変態監督デビィット・リンチは言います。「ベーコンは偉大なるインスピレーションの源 出逢った瞬間 恋に落ちる」。

そんな彼の代表作【ジョージ・ダイアの三習作】、25歳も年下の恋人ジョージ・ダイア(男性)の肖像の三幅対、実際の見た目は男性的なジョージ。
しかし 中身は内向的で酒に溺れる弱い面を持っていた人物です。この絵では 写真で見ては読み取ることの出来ない情緒不安定なジョージの内面を見事に捉えています。
溶けたように歪められた顔の中心に何故か黒い穴が開いています。まるで その穴に吸い込まれて行くような錯覚に陥ります。
この絵で予言したかのように付き合ってからの8年目。ベーコン初のパリの個展の開催日 自死します(驚き)。

ロンドンのソーホー、昼過ぎから一晩中 飲み歩く日々を送りながら、カオスでアナーキーなアトリエで制作を続けました。
ピカソのように恋愛をバネにして沢山の創作をしてきた彼ですが、晩年には自画像が多くなります。本人いわく、親しい仲間達が次々に亡くなってしまい、モデルがいなくなってしまったからだとも言っています。
ある日、美青年の恋人を追いかけていったスペイン、八十過ぎの色恋は身体に堪えたのか心臓発作で亡くなります。
誰も葬式には来なかったといいます(涙)。
来たのは友人から届けられた花だけ・・・。花が大嫌いだった彼には何とも淋しい最後でした。「死んだらゴミ袋に入れて捨ててくれ・・・」 そう宣言していた彼、墓も造られませんでした。

人間はこの世に存在した時点で罪を背負う、 強欲、色欲、嫉妬、大食、怠惰、憤怒、倣慢・・・。
人間の暗黒面だけを強調したように見える絵ですが、人間の儚さ、人間の脆さを表現したものなのかもしれない。
自分の絵画に一切の説明を残さなかった男、観る側が試されてるかのように・・・。道端の犬の糞のように儚く消えた・・・。

人生とはこのようなものなのだ!

会場にはベーコンに影響を受けたという土方巽の暗黒舞踏が延々と流れていた・・・。

果たして我が輩はベーコンを理解出来たのであろうか? 次回がないことを祈りつつ・・・。