2020/10/20
アバラ久しぶりにヒビ入る


江口美幸です。

それは、関節技の練習の時でした。いつも通り金原先生に、「遅い」「違う」「逆!」という言葉を、繰り返し言われながら、あたふたと、それでも頑張って練習して、最後のスパーリングに入りました。

金原先生は、スパーリングで私を相手にする時は力を入れたら死んじゃいますから、力を抜いて軽く軽く、そーっとやってくれます。
その日も、私に技をかけさせて攻撃の練習をさせてくれたり、途中で先生も技をかけて、私にディフェンスの練習をさせたりして、スパーリングは進んでゆきました。

途中で、先生が私の腕を取り、腹這いになりました。そして四つん這いになっている私の胴体に足をかけてきました。
ああ、腹這いの腕十字が来る!いかん、この足を、深く入らせてはいけない。そしたら、極まってしまう。と思ったのですが、先生の足が速くて、するりと深く入りました。
…その瞬間「ゴキッ」という音がしました。そして、激痛!

「うわっ!あー!!」
痛みのあまり大声で叫ぶと、先生はびっくりして手を離し、「えっ、何?!」と私を見ました。
私は脇腹を抑えながら
「すみません…やってしまいました…」
「えっ、肘?どこ?」
「アバラです…折れました」
「アバラ?折れた?いや、そんなことないよ!そんな力は入れてないから」
先生は、何を馬鹿なことを、と首を振ってます。
「いえ、本当に…ヒビが入りました」
だって私、空手の選手だったんだもの。アバラのヒビは何度かやったことがあります。この感じは間違いない。久しぶりだけど。

先生は、いやいやと半笑いで首を振りながら、手を伸ばして
「美幸さん、これ痛い?」
と、脇腹をくいっと押しました。私はぎゃっ!と悲鳴を上げて
「痛い!痛いです」「えっ…」
先生の顔色が変わり
「美幸さん、吐き気する?」「します!」
キッパリと答える私。
「えーっ」
先生は、信じられない表情で
「いやいや、そんなこと…。美幸さん…これ痛い?」「痛い痛い!」
私は涙ぐんで
「先生、何度も確かめないでくださいー、痛いー」

先生は頭を抱えました。
俺が!まさかこの俺が!女性に怪我をさせてしまった!嘘だろ!という先生の心の声が聞こえました。で、一瞬、現実から逃げたいらしく、
「美幸さん、あのさ、一般の人よりも骨が弱いってことある?」ときいてきたので、
「あの、そんな人間が、格闘技やってないと思うんですけど…」
と、折れた場所を抑えながら恨めしい目つきで先生を見ると、先生は慌てて
「いや、そうだよね」
と言って、やっと現実を認めて下さり
「ごめんなさい」
と言って、ダンナさんが走って持ってきてくれたアイスノンを折れた箇所に当てて、コルセットでぎゅっと圧迫してくれました。

「あれだけで折れてしまうのか…」
と先生が呟いていたので、我ながら自分の弱さに悲しくなりました。しかし、アバラって、本当に、角度とタイミングと力が偶然に一致してしまうと、パキッとヒビが入ってしまうものなんです。あの時、先生は力を本当に抜いていたのに、偶然その角度に入ってしまったのですね。

いざ現実に向かい合った先生は大変に頼もしく、家ではああしろ、こうしろ、という的確な指示を出しました。そして
「大丈夫だ。俺がやったけど、俺が最短で治してみせるから」
と、キリッとした顔で言いました。かっこいい…のかな?これは優しいのかな?どうなのかな?

とにかくその名言通り、先生はそれから二週間、ダンナさんの練習中にも私を来させて、先生の持って来たハイボルテージという機械で超音波をアバラに流してくれました。私は機械のコードにつながれながら、ダンナさんと先生の、二人の中年男性の筋肉がぶつかり合うのを、ぼんやり見ていました。

15分したら私のところに来て、汗だくのまま10分ほど治療して(ダンナさん、その間は休憩)、そしてまた指導に戻る、ということを繰り返し行いました。それ以外の時間は、仕事中も寝る時も、先生が貸してくれた、微弱電流が流れる機械をつけていました。

それを繰り返して二週間。
…すごい。動ける。
もちろん、全ての動きができるわけじゃないし、コルセットしながらだけど、練習ができる!普通は三週間はかかるのに。早いぞー!
治り具合を見て、金原先生は
「俺って、すごくない?」
と言って、ニヤリと笑いました。

はい、先生はすごいです。おかげで、とても早く練習が再開できました。
でもやっぱり、怪我は嫌だ…アバラにヒビが入ったら咳もくしゃみもできないし、寝返りも打てない。何よりも、練習できないし!
健康の有り難さが身に滲みます。当たり前に練習できる日々って、本当に幸せなんだなと再認識するのです。
皆さんも、怪我には充分気をつけましょう。コロナ対策の消毒も忘れずにね!では、また!