2022/12/16
「ダンナさん脳梗塞で倒れる・4」


 今はコロナ禍ですから、ダンナさんが脳梗塞で入院してもお見舞いには行けません。まあ、行けてもそんな時間は無かったでしょうが…。
 その代わり、何日かごとに、電話で、看護士さんが様子を教えてくれます。
 その時に言われました。
「脳梗塞の影響で、失語症になっています」と。
…ん?失語症とは一体何?

 一応説明はされましたが、自分でも調べてみますと、言葉がうまく出ない、相手の言葉が理解できない状態。
 ちょうど、脳の言語野というところにダメージを受けると、その状態になってしまうのです。あらら…。
 確かに、倒れて4日後くらいに、リモートでお見舞いができるのですが、その時も、ほとんど言葉が出てこない状態でした。

 一週間後に、担当のお医者さん、担当の看護師さん、ソーシャルワーカーさん(転院や、生活面での困難のサポートなどを相談できる人) と、今後のことを話し合う日があり、私は病院に行きました。ちなみにこの日も、コロナ対策の為にダンナさんには会えません。
 でも、部屋に入った瞬間、ソーシャルワーカーさんも、担当の看護師さん(二人共、しっかりした感じの女性)も笑顔で、悲壮感は全くありません。
 いや、ニコニコというより…どっちかというと、ちょっと笑いを堪える感じ?ニヤニヤ?
 状態はあまり深刻ではないのかな?と、少し安心します。

「今、話してたんですけどねえ、すごく元気らしいですよ」
 ソーシャルワーカーさんがクスクス笑いながら言います。すると看護師さんが、もうこちらは普通に笑いながら
「もうねえ、昨日はすごかったの!あれはリハビリじゃないわね!練習よね、修練っていうの?」
「えーっと、一体ヤツは何をしたんでしょう?」
 と私が言った時に、遅れてお医者さんが入って来ました。
 お医者さんもニコニコしていて
「遅れてすみません。いやー、昨日はリハビリ室が騒然としましてね」
「すみません…(既に悪い予感がして謝ってしまう私)何かしましたか…」
「はじめから話しますと、手術したあの日の次の日に、歩いてトイレ行ってました。僕、廊下で二度見しちゃいました。普通はそんなことできないです」
 おうー、さすがダンナさん。強靭な足腰。
「それで、今日からリハビリ室でのリハビリだったんですよ。そしたら、ご主人、何でも出来ちゃったから、やること無くなっちゃって。時間が余ったから、じゃあもう、何しててもいいですよ、って言ったらね」
 お医者さんは、頭の上に手を挙げて、
「ここら辺とか、色んな高さのところに、ボールがぶら下がってるんですよ」
 リハビリ室だから、手を上げさせる為のものなのでしょうか。
「そこをご主人、蹴りはじめましてねー」
「あ、ああー!…すみません」
「すごいですねえ。足があんなに上がるんですね」「あー、はあ」
「なんか色んな蹴り方で蹴ってましたよ。あれすごいですね、ジャンプして、クルッと回って、蹴るやつ」
 …飛び後ろ回し蹴りかな?そんな大技を…。まあ、ダンナさんにしたら、自分がちゃんと蹴れるか、確かめたかったんでしょうけど。

 

「退院して一ヶ月後のダンナさん。懸垂が10回しかできなくなったとこぼしてました。前は何回できたんだ?」


お医者さんは続けて
「あっ、あと、あれは凄かった!柔らかいマットがひいてある場所があるんですけど」
「まだ何かしましたか?」
「そのマットの場所に、回って飛び込む…あれは何て言ったかな?…そうだ、受け身だ!あれをやってました!色んな方向から。空中で一回転するやつもやってたけど、もうあの時は他の人がみんな固まってましたよ」
 前受身、横受身、どうやら回転受身もやったみたいだ…。

「すみません…」
 何故かひたすら謝り続ける私。
「いや、こちらが何してもいいって言ってしまいましたからねー」
 お医者さんは、終始笑顔でした。
「ということで、ご主人、身体に全く問題はありません」
 …そうでしょうね。
「動きづらいところはあるとは思いますが、退院して、また練習に戻りましたら、徐々に元に戻ります」
「ありがとうございます」
「ただ、失語症は、少々強く出ています。これは、はじめの専門的なリハビリが肝心なので、リハビリテーション科がある病院に転院して、しっかり治すことをお勧めします」
「そうですか…」
 ということで、ダンナさんは今度は、違う病院のリハビリテーション科に転院することになりました。

 しかし、リハビリ室はきっとお年寄りが多いと思うのですが、そこで、まるで曲芸のような動きをしていたダンナさんのことを皆さんはどう思ったのか。
 おじいちゃんが、うわ、なんだあれは!心臓に悪い!とドキドキしてしまったら大変申し訳ない。
 しかし「いいもん見せてもらいましたわい」と拝むような気持ちになってくれたら嬉しい…。そうでありますように…。

 リハビリテーション科にいた時のダンナさんの様子は、また次回に!