2022/8/21
部活動の地域移行


押忍。八王子みなみ野道場の戸谷です。

夏、ということで、あだち充先生の超ハイパー名作高校野球漫画『H2』を読み返しているんですが、やっぱり超ハイパー名作です。
『H2』に限らず、学校の部活動を主軸にそのスポーツが描かれている作品はとても多いですよね。今度アニメ映画化する『スラムダンク』も高校のバスケットボール部が舞台です。


しかし、最近この部活動の形が大きく変わる流れができています。(ここでは主に公立中学校の運動部を指します)
スポーツ庁主導で、2023年度から2025年度は「部活動改革集中期間」となることが決定しました。2023年度から全国で段階的に土日の部活動は地域移行されることになっています。
つまり、学校の先生は原則土日に部活の指導や監督に当たらず、土日の部活動は外部委託にするか休みにするかにしましょう、ということです。
部活動の活動時間に関しても、ガイドラインでは上限を平日2時間、休日3時間、週当たり計11時間まで、としていますが、現状大半の学校でこれが守られていないので今後厳しく是正することになっています。

公立学校の部活動は学校の先生の無償時間外労働によって成り立っています。
かねてからこれは労働問題として指摘されていましたが、2017年に10年ぶりに実施された「教員勤務実態調査」によりその時間外労働が大幅に増加していることが明らかになりました。
日本の教員が部活指導に当たっている時間の長さは、OECD加盟国の中でも断トツです。
過労死ラインに達する時間外労働が無償のまま公然と行われていることが、社会的にもいよいよ看過できなくなってきました。先生たちの労働環境の改善は急務です。


そういった学校の先生たちの労働問題から端を発している部活改革ですが、上手く地域移行化、効率化ができれば、部活をやっている生徒たちにも大きなメリットがあります。

まず単純に指導の質が良くなります。
部活の顧問の先生はその競技のプロではありません。専門的な知識や経験がないまま独学で勉強をして手探りでやっている人がほとんどです。そもそも練習方法が分からないところからスタートしています。
外部委託で専門的な指導者が来れば、効果的な練習メニューが組めるのはもちろん、その練習での意識の持ちどころも解りますし、修正点も細やかに発見できます。同じ時間を費やしても全く違う内容になってきます。

また、拘束時間が大幅に減ります。
各スポーツ選手が指摘していることですが、全国レベルを目指すような選手でもない限り、毎日3時間近く、土日も含めて週5回も6回も練習する必要は全くありません。というよりも専門家が指導していない限りほぼ逆効果です。
活動時間を減らすのは練習メニューの取捨選択に根拠と勇気が要るので実は難しいことです。時間を減らすことで周囲から「あの顧問の先生はやる気がない」と見なされてしまう場合もあります。
今後は、長い拘束時間ありきで冗長な練習をするのではなく、生徒を上達させること、満足度を高めることにコミットしていく形の指導が求められるようになっていきます。
練習内容は向上し、余った時間は勉強や他の習い事にも使えるようになるわけです。


…と、地域移行は良いことづくめのようですが当然課題もあります。
主なものとしては指導者の人材および人件費の確保です。
実験的に地域移行を進めている自治体もありますが、地元のスポーツ少年団や引退した元教員が請け負っているケースが多く、必ずしも「専門的なコーチが就いてくれる」というイメージ通りにはなっていません。
指導報酬も自治体によっては一回2時間でわずか1000円だったりと、実質ボランティアのような状態で、専門家をきちんと雇うようなものではなかったりします。
ここはどうしても自治体によって格差が出てしまうところです。

ただ、自分の住む自治体で地域移行が上手くいこうがいくまいが、今後この流れは変わらないですし、変えていかざるを得ないと思います。
これまで部活動はある種違法状態で先生たちの半強制的なタダ働きに支えられていた…つまり、元々健全な形では成立していなかったということです。
今後は受益者負担を原則に、「ここまでは自治体が負担しますよ。こっからは部活をやる人たちが自分で負担してね。もっと練習がしたい人はちゃんと私設のスポーツクラブに所属してね」というようにバランスを取っていくことになるかと思われます。


自分も地域スポーツ指導者の一人として、学校の部活動には色々と思うところがあります。
部活が忙しすぎて空手をやめてしまう子もいますが、それに関しては「部活に生徒を取られた!」と感じたことはなく、道場生が結果的に空手よりも部活を選んだのならば、それは当人にとってより有意義なものが見つかったということなので、全く悪いことではないと考えます。
しいて言えば、「空手も続けていきたい」と思えるほどの魅力を感じさせられなかった自分の力不足を感じることはあります。

ただ、空手と部活を併行している子が、部活の拘束時間の長さに疲弊しきっていたり、学校の先生や生徒間の人間関係に翻弄されていたり、内申に響くことを気にしていたりする姿を見るのは、心苦しいものがあります。(それも人生勉強ではありますが)
道場生は貴重な可処分時間の中で道場に通ってくれているので、こちらとしては空手以外の時間は勉強をするにしても羽を伸ばすにしても有意義に使ってほしいと思っています。
気まぐれに拘束時間や練習メニューを設定しているような部活動のケースを聞くととても残念です。子供たちはそれを「学校命令」として最優先に取り組まざるを得ないからです。

もちろん、学校の先生たちの中にも非常に優れたスポーツ指導力を持つ方はいらっしゃいます。
城西国分寺支部の学生選手にも、陸上部のトレーニングで基礎的なフィジカルが劇的に向上して強くなった人たちが沢山います。
また、八王子みなみ野道場には、空手部の顧問になったことを切っ掛けにわざわざ自分で空手を習いに来ている学校の先生がいらっしゃいました。
こういった、部活に対する熱意のある先生と、地域のスポーツ指導者が上手く協力していけるようになっていくと良いなぁと思っています。


今回、話が長くなってしまいましたが、私はこの部活改革は大賛成です。
先生たちの負担が減れば、必然的に授業や生徒への個別対応の質は向上しますし、教員を目指そうという優秀な人を取りこぼす機会も減っていくと思います。
生徒たちも勉強・部活・余暇のバランスがかなり取りやすくなります。人によってはセルフマネジメントの意識が芽生える可能性もあります。
個々で見れば従来よりしょっぱい形になってしまう部活もあるかもしれませんが、それならそれで「課外活動を部活という形でやらなくても良い」という選択も出てきます。
少なくとも「よくわからないけど慣習として拘束される部活」というものは、今後減っていかざるを得なくなるのではないでしょうか。


…ちなみに私は、中学時代はテニス部のキャプテンで女子とも明るく話せていた…という設定でみなみ野の道場生たちに吹聴していますが、誰一人として信じてくれません。実際嘘です。
なんか、部活の青春感ってのはいいですよね。
学生の道場生が空手と上手く併行していけるようこちらも頑張っていきます。
押忍。