2023/1/24
「ダンナさん脳梗塞で倒れる・6」


失語症の為に、リハビリテーション科に入院したダンナさん。やる事は、8割は言葉の練習です。
挨拶の練習から始まって、文を音読したり、言語聴覚士さんという、失語症を回復させる訓練をしてくれる人との会話の訓練、などなど。受験のために、泊まり込んで一日中勉強する、塾の合宿みたいなものですね。でも、二ヶ月以上は、なかなか長いです。

ダンナさんは身体は元気なので、練習したくて、たまらなくなってきます。
スケジュールの内、2割ほどある、身体の訓練は、ダンナさんにとったら、物足りないにもほどがあるものだったらしく、何とかならないか…と、リハビリ室に誰もいない時に、こっそりとウォーキングマシンに電源を入れて(いけません)、スピードを一番上まで上げてみたり(いけません)しましたが、やはり、レベルが上げられないようにできているらしく、「ダメだった」と残念そうに言っていました。そういうことをしてはいけない…。

電話で話していても「後○日だ」と必ず言うようになり、退院する日を指折り数えて待っていました。

そして退院の日。
お医者さん、看護師さん、ソーシャルワーカーさんに挨拶をして、少しお話しましたが、皆さん一様に言っていたのが
「江口さんは、本当に努力をする」
ということでした。

看護師さんは
「僕が朝に部屋に行くと、もう既にトレーニングをされていて、毎日、すごいな!と感心していました。僕もウェイトトレーニングしよう、って決意したんですよ」
おおー、いいっすねー。ますますイケメンっぷりが磨かれますよ!モテモテでヒューヒュー!なんてこと思っても、もちろん言いませんでした。
年上の大人の女性らしく、穏やかに微笑んで
「ありがとうございます」
と言いました。
ソーシャルワーカーさんも
「私が廊下を歩いていたら、勉強の時間じゃない時も、椅子がある部屋で、テキストを音読してたしね。えらいわー」
と言ってくれました。
お医者さんも
「江口さん、これを続けてくださいね。江口さんは必ず治りますから」
と太鼓判を押してくれました。

うーん、なんか誇らしい気持ち。そりゃ、自分の子供でなくても
「もうちょっと頑張って欲しいんですけどねー」「何が嫌なんですかねー」
なんて言われるよりも、
「ご主人、すごいですね!」
と言われた方がいいに決まってます。
でも私は、もうダンナさんとの結婚生活長いですから、あの人は絶対的に努力する人だ、ということは分かっていました。
だから皆さんが褒めてくれた時も、
「うんうん、そーだろそーだろ。あの人が、努力しないわけないのよ」と、心の中でつぶやいておりました。

しかし、加圧トレーニングのお客さんの中に看護師さんがいるのですが、その人の話によると、努力を全て放棄してしまう人もいるらしく
「本当に、リハビリを全くやろうとしないんですよ。このままだと一生歩けなくなりますよ、って言っても、ダメなんです。やる気が全くないんです。そして、そういう人は本当に全く良くならないんですけどね」
と言っていました。
そういう人の家族は、可哀想だな…と思いました。やはり、治ろうと努力する人には、こちらも助けてあげたいと思いますが、全く努力しない人の世話なんか、したくないよな…。
ダンナさんが努力する人で、本当に良かった。

ちなみに、病院でダンナさんと同室だったトノウチさんという男性も、やはり脳梗塞ではじめは車椅子に乗っていたのですが、とても努力する人だったらしく、ある日、入院中のダンナさんが電話で興奮して話してくれたのは、トノウチさんはすごく努力家で、ベッドの横で一人で立つ練習をずっとしていて、
「そうしたらね、今日、すごく時間がかかったんだけどね、トノウチさんがだんだん立ち上がってきて、すごく苦しそうだったけど、後もう少し!って感じになってきて、もう俺、黙っていられなくて」
「俺、トノウチさんのそばに走って行ってさあ、トノウチさん!!頑張って!頑張って!って、ずっと応援してたの。そしたらさあ、トノウチさん、立ったんだよー!立ったの!もう、すごく嬉しかったよ!」
「良かったねえ!」
「うん。二人で、やった、やった、って、手を取って喜んじゃった」
ああ、私、これと同じ話を、スイスを舞台にした、少女が主人公のアニメで、観たことがあるなあ、と思いました。とても感動的なあの場面。そのおじさん版ですね。

そしてトノウチさんは、病室の中でも、本当はコロナで、患者さん同士は喋らないで欲しいと看護師さんに言われていたらしいのですが、
「そんな事したら、江口さんの為にならない!この距離でコロナがうつるわけがない。どんどん喋りましょう!」
と言ってくれて、たくさんお喋りしてくれたらしく、しかも
「今の言葉はおかしい。正確には○○です」「江口さん、もう一回言ってみましょう」
と指導もしてくれたらしく
「トノウチさんは厳しいんだ」
とダンナさんは言っていました。

今回の脳梗塞で、ラッキーだったと思うことは色々ありますが、同室の人に恵まれた、ということもあると思います。
トノウチさん、お顔も知りませんが、本当にありがとうございます。

多分、次回が最終章になります。それではまた!